PMID: 33987137
なぜ本論文に興味を持ったか
ICUでは腸管不耐や人工呼吸器の離脱着などのイベントに関連し、経腸栄養を中断する場面に遭遇する。特に外科術後患者では顕著な印象を受ける。経腸栄養による目標到達が困難であれば静脈栄養を開始することが提言されている。一方で、人工呼吸器の再装着に備えて経腸栄養が中断となる場合には、明確な基準なく時間が経過し、相当量のエネルギー負債が発生してしまう。過剰投与なく患者状態に応じた適切な栄養投与量の維持ができるか否かでQOLに差が生じるのではないかと感じていた。
Why are you interested in this paper
In the ICU, we encounter situations where enteral feeding is interrupted in relation to events such as intestinal intolerance or ventilator weaning. This is especially true in postoperative surgical patients. It has been suggested that intravenous feeding should be started if it is difficult to reach the goal with enteral feeding. In the case of patients who have to have their enteral nutrition interrupted in preparation for the re-installation of a ventilator, time passes without clear criteria, and a considerable amount of energy debt is incurred. we felt that there may be a difference in QOL depending on whether or not the appropriate amount of nutrition can be maintained according to the patient’s condition without overfeeding.
目的:術後患者に対し目標エネルギーに近づけることが臨床転帰に影響するか
Objective:The aim of this study was to investigate whether approaching target calorie intake of surgical patients influences on their clinical outcomes.
対象と方法:
2014年8月から2016年7月まで、Chung-Ang大学病院のSICUで入院中に栄養サポートが提供された患者を、算出したサンプルサイズ分だけ連続して抽出した。SICU入院後48時間以内に死亡した患者は除外。栄養サポートは外科医、薬剤師、臨床栄養士による毎日の回診で、栄養サポートチームの推奨に基づいて実施し、栄養補給の妥当性や摂取量を評価した。経腸栄養は,糖尿病や腎不全などの基礎疾患に応じて市販の栄養剤を使用した。
ESPENガイドラインに従い、エネルギー供給目標はSchofield Equationを用いて算出した総エネルギー必要量にできるだけ近づけることを目標とした。 蛋白質の必要量は、人工呼吸器、寝たきり、腎臓病、血液透析などを考慮した上で、各患者に合わせて1.0~1.5g/kg/日とした。患者の年齢とBMIに応じて、理想体重または調整体重を計算式に適用した。エネルギーおよびタンパク質の達成率(%)は次のように計算した。(実際の摂取量/推定必要量)×100%とした。患者の栄養不良状態は、ICU入室時の理想体重(IBW)とアルブミンの割合で評価した(表1)。
データ収集と評価
患者の年齢、性別、体格指数(BMI)などの人口統計、および重症度(簡易急性生理学スコア[11]、病院-死亡リスク予測スコア[12])、入院期間およびICU滞在期間、死亡率、栄養摂取経路、その目標カロリーと目標タンパク質、そして経腸・非経口それぞれの1日の達成量を検討し、カルテから収集した。血清中のヘモブロビン,アルブミン,CRPは,SICUに入院中,少なくとも3日に1回,あるいは患者の状態に応じてより頻繁に測定した。分析には、SICU滞在中のそれらの検査の平均値(SICU退院前または死亡前)を使用した。これらのデータを分析して、SICU入院中の目標カロリー摂取量との関連性を調査した。279人の患者の2,709件の毎日の栄養記録の分析では、生存率に影響を与える要因を発見することを検討した。そこで、患者を生存群と非生存群に分け、これらを患者の臨床的要因と比較した。
結果:
SICU患者279人の記録2,709件を検討したところ、男性患者が60.6%で、脳神経外科の患者が多かった。年齢(平均±標準偏差)は63.34±15.38歳で、平均SICU滞在日数は12.45±11.13日であった。患者の人口統計学的特徴と臨床的特徴を表2に示した。カテゴリー別では、38%が基礎的なカロリー不足で、9%が中等度の重症であった。180人の患者(64.5%)が平均2.07±1.9日目に経腸栄養を開始し、その他の患者(35.5%)は、SICU滞在中に非経口栄養剤のみで栄養補給を行った。
目標カロリーへのアプローチと患者の臨床的特徴との関連性
SICU滞在中に目標カロリーまたは目標タンパク質の摂取量が100%に近づいた患者を目標カロリーまたは目標タンパク質摂取群と定義した。279名の患者のうち、SICU滞在中に目標カロリー摂取に近づいたのは103名(36.9%)であった。タンパク質については、48.4%の患者が推定必要量を達成した。どのような要因が目標カロリーへのアプローチに影響するかを明らかにするために、目標カロリーの達成度に応じて2つのグループの患者を比較した。表3に目標カロリーを達成した群としなかった群の特徴を示す。
目標カロリー達成者と非達成者では、年齢、BMI、治療を受けた診療科に差はなかった。目標カロリーを達成した患者は、入院日数が有意に短かった。目標カロリー達成群では、より高い経腸栄養施行率が認められた。非経口栄養に対する平均経腸栄養率は53.2%対46.8%であった。目標カロリーを達成できなかった患者では、非経口栄養に対する平均経腸栄養率は34.0%対66.0%であった。
目標カロリー達成群では、SAPSスコアが低く、女性患者が多く、死亡リスクの予測が低かった。また、目標カロリー摂取量を達成した患者は、より目標タンパク質摂取率を達成した。しかし、目標とするカロリー摂取量を達成できなかった患者と同じ死亡率を示した。多変量回帰分析では、女性の性別(OR = 2.00, p = 0.012)と経腸栄養(OR = 2.03, p = 0.024)が目標カロリーアプローチに影響する有意な因子であることがわかった(Table 3)。
ICU日数に応じた目標カロリー設定に影響する臨床的要因
SICUに長期入院している患者は、疾患自体の重症度や難治性の感染症など、他の複雑な問題を抱えている可能性が高いため、SICU滞在期間によって目標カロリーに影響を与える要因が異なると考えた。そこで、SICUの入院期間を7日以上とそれ以下に分けて、関連する要因を分析した。
SICU滞在期間で患者を2群に分けたところ、61.3%(171/279)が7日以下のグループに属していた。SICU滞在期間が≦7日または>7日のグループでは,目標カロリーの考え方に違いはなかった(各グループで34.5%対40.7%,χ2分析でp=0.310)。表4では、経腸栄養が、目標カロリーを達成するためのSICU滞在日数が7日以下の場合に、より重要な変数として確認された(OR = 4.13; p = 0.006)。SICUの滞在期間が短い患者は、滞在期間が長い患者よりも経腸栄養療法の影響を受けていた。SICU滞在日数が7日以上のグループでは、患者の性別が目標カロリーへのアプローチと関連していた(OR = 2.953; p = 0.003)。
院内死亡率と影響因子
患者の臨床的要因と院内生存率との関連を表5に示した。入院中に死亡した患者は約9%(n=25)であった。死亡率と目標カロリーアプローチとの間に相関はなかった。患者の平均アルブミン値とCRP値は、患者の院内死亡率と有意な相関があることがわかった。また、中等度の栄養不良の状態にある患者は、死亡率の上昇に関連していた。患者の性別、年齢、BMI、平均ヘモグロビン値は、患者の死亡率と統計的に有意な関係はなかった。
結論:
経腸栄養と患者の性別がSICU患者の目標カロリー供給量を達成するための重要な臨床的要因であり、その重要性はSICUの滞在期間によって異なることが明らかとなった。より高いカロリーを患者に供給することで、TLCとCRPの値が有意に改善した。しかし、目標カロリーのアプローチに応じた死亡率の変化は認められなかった。SICU患者の死亡率は、目標カロリーアプローチや患者の平均アルブミン値やCRP値よりも、基礎的な栄養失調の影響を受けていた。
考察と今後に活かすこと:
近年では栄養管理や治療の標準化がすすんでいるため、重症患者の救命率は向上しており、PICSに説明されるように救命後の長期的なQOLが世界的な問題となっている。エネルギーの充足や、経腸栄養施行率が死亡率にどう影響を及ぼしたか。のみでは新規性は乏しいと感じた。エネルギーやタンパク質の投与量に関する記載は、目標を達成したか否かのみであった。体重当たりの充足率や投与量を少なくとも7日間などの一定期間示す必要があると感じた。予測エネルギーに近づいたか否かで2群に分けているが、このような群分けによる論文は目にしたことがなく恣意的な選択が否めない。また、ロジスティック解析は当てはまり係数の記載がなく、モデルの評価が困難である。結果として栄養投与量の明確差にかけ、QOLへの影響となる新たな知見は得られなかった。